猫と安全に付き合うために知っておきたい!「人と動物の共通感染症」

世界中に存在する感染症の多くは、人と動物との間で感染することが知られています。こうした感染症を「人と動物の共通感染症」と言います。
この記事では、そもそも感染症とは何かという事と、猫と人に関わるの共通の感染症について詳しくご案内していきます。また、家庭でできるペット用品の消毒法など感染症予防についてもご紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。

感染症ってどんなもの?

感染症とは、病原体が人や動物の体に侵入して定着し、増殖したり毒素を出したりすることで起こる病気の事です。身近なものでは“風邪”や“ものもらい”などの軽度なものから、“狂犬病”や“ペスト”、“エボラ出血熱”など命を奪うような感染症もあります。最近話題になった、殺人ダニが媒介する“重症熱性血小板減少症候群(SFTS)”も感染症の一つです。

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病原体ってなに?

病原性を持つ微生物などの事を病原体と呼びます。「人と動物の共通感染症」の病原体は大きく6つに分類されます。

  1. 細菌・・・大腸菌やコレラ菌など。単細胞で細胞分裂しながら増殖する。
  2. ウイルス・・・ノロウイルスなど。細菌よりさらに小さな微生物で細胞を持たず、人や動物の細胞に侵入して増殖する。
  3. 真菌・・・カビや酵母。カビの仲間の総称です。いわゆる水虫の原因菌で皮膚に感染する。
  4. 原虫などの微生物・・・体の中に寄生する内部寄生虫のうち、肉眼では見ることができない微生物です。
  5. ぜん虫・・・肉眼で見える内部寄生虫。回虫や、瓜実条虫、日本住吸血虫など。
  6. プリオン・・・牛のBSE(牛海綿状脳症)で話題となった異常たんぱく質です。

病原体から体を守るしくみ

人や動物の体は外部から病原体が入ってきても、病原体から体を守り、排除するしくみが備わっています。
例えば、皮膚や鼻毛、口、粘膜などは病原体が体内へ侵入できないように、表面的なバリアとして体を守ります。
体内に侵入した病原体に抵抗するのは、白血球を中心とした免疫細胞です。
このように病原体から体を守ったり、病原体を排除する仕組みが免疫です。

「人と動物の共通感染症」について

動物には症状が出ない不顕性感染が多いのが「人と動物の共通感染症」の特徴の一つです。人にとって危険な病原体を持っている野生動物がいても、症状が出ていないため、人への感染やその危険性を察知することが難しいというのが大きな問題です。

動物からの主な感染経路

直接接触感染 咬傷(唾液を介して)  狂犬病など
咬傷、ひっかき傷 パスツレラ症猫ひっかき病など
感染部位、かき傷、潰瘍部との接触 皮膚糸状菌症疥癬、野兎病など
流産胎児などとの接触 犬ブルセラ症、Q熱など
健康な皮膚からの侵入 野兎病、日本住吸血虫など
間接接触感染 フン中の病原体が飲食物・水・空気・手指・器物などを介して侵入  サルモネラ症、カンピロバクター症、リステリア症、ブルセラ症、仮性結核、Q熱、オウム病、トキソプラズマ症回虫症など
尿中の病原体が飲食物・水・手指・器物などを介して侵入  レストピラ症、ブルセラ症
唾液・鼻汁・くしゃみなどを介しての病原体の侵入  結核、オウム病
気密性の高い部屋での空気感染  パスツレラ症
ほこり  Q熱、オウム病、皮膚糸状菌症など
 回虫症トキソプラズマ症、仮性結核など
節足動物の媒介による感染 ダニ、ノミ、蚊による吸血など  野兎病、ペスト、ライム病、猫ひっかき病、つつが虫病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)Q熱、日本脳炎、デング熱など

*参考文献「愛玩動物飼養管理士教本」

もしかしたら共通感染症かも、そんな時はどうする?

「人と動物の共通感染症」の症状は様々ですが、風邪やインフルエンザなど他の感染症と区別がつかないものがほとんどです。また、動物が軽い症状だったり無症状なことが多いため、共通感染症に感染していることに気づかず発見が遅れがちになります。
もしかして共通感染症?と思ったらどうすればいいか、いざという時のために対処法を確認しておきましょう。

  • 知らない動物に咬まれたら念のため外科の受診を
    犬や猫の口内には様々な細菌がいます。強く咬まれたり、血が出るほど引っかかれたりしたらすぐに、傷口を洗浄・消毒しましょう。知らない動物の場合は、病院で受診することをおすすめします。
  • 原因不明の体調不良が長引く時は病院へ
    だるさや倦怠感が続くなどの慢性的な症状の共通感染症もあります。お医者さんに、ペットがいる事や、動物との接触状況をきちんと伝えましょう。
  • ペットが無症状でも動物病院に相談を
    ペットは無症状で人だけに症状が出ている場合も、念のために動物病院で検査を受けましょう。人だけが治療してもペットが菌を持ったままでは、また再発してしまいます。
  • 免疫力が低い人は、日和見感染に注意
    幼児や高齢の方、糖尿病などの持病がある方は免疫力が低いことから、健康な人では症状が出ない病原体でも発症する日和見感染が起こる場合があります。いったん発症すると重症化しやすいので、より注意が必要です。
  • 「人と動物の共通感染症」に感染したら届け出は?
    飼い主が届け出をすることは、狂犬病以外には特に定められていません。医師や獣医師は、対象となっている感染症を診断した場合、保健所に届け出ることが義務付けられています。

共通感染症の予防のために

普段の行動を見直そう

  • キスや口移しなどはしない
    パスツレラ菌のように健康な犬や猫の口の中に普通に存在する菌が病原体になることがあります。動物とキスをする、顔を舐めさせる、口移しで食べ物を与えるなどの過剰な接触は避けましょう。食器はペットと分けるようにしましょう。
  • 動物に触ったら手洗いを習慣に
    動物の体に病原体がついていることがあります。また、知らないうちに動物の唾液や粘膜、傷口などに触れていることもあるので、動物にさわったら手を洗うことを習慣にしましょう。
  • 土や砂に触れたら必ず手を洗う
    土や砂の中には、寄生虫の卵などの感染源が含まれている可能性があります。子供の砂遊びや、ガーデニングなどをした後には、しっかりと手を洗いましょう。
  • 野生動物とむやみに接触しない
    野生動物が病原体を持っているリスクは未知数なので、むやみに触らないようにしましょう。触る場合には、ビニール手袋をするなど対策をして、接触後はしっかり手洗いをしましょう。また咬みつかれたり引っかかれたりしないように注意しましょう。
  • フン尿はすみやかに片付ける
    フンなどの排せつ物が乾燥すると、その中に含まれている病原体が空気中に舞い、吸い込みやすくなるので、すみやかに片付けます。汚れたトイレを嫌がる猫にとっても、気持ちよくトイレが使えるようになります。片付けるときは、排泄物に直接触れることがないように注意して、終了したら良く手を洗いましょう。トイレの設置はなるべくキッチンから遠ざけましょう。
  • こまめな清掃で清潔に
    部屋の掃除の際は、ペットの抜け毛やフケを取り除き清潔にしましょう。ノミやダニの姿が見えなくても、卵が潜んでいることがあるので、動物がよくいる所は特にしっかり掃除機をかけましょう。また、こまめな換気も大切です。閉め切った室内は、抜け毛や乾燥した排泄物などで空気が汚れやすくなります。空気清浄機を活用するのも効果的です。

オススメのペット用品の消毒法

感染予防には、ペット用品を清潔に保つことも大切です。そのためには、洗剤で菌を洗い落とし、消毒で病原体を取り除くことが重要です。
消毒におすすめなのは、殺菌力が強く、細菌・ウイルス・真菌に有効な次亜塩素酸ナトリウムです。これは、塩素系漂白剤(ハイターなど)として市販されていて、簡単に手に入ります。この塩素系漂白剤を薄めて消毒液を作ります。トイレなどウイルスや細菌が多く付着しているような物の消毒には濃度0.1%、その他ケージなどには濃度0.02%の消毒液を使います。消毒液に一定時間浸したり、スプレーにして噴霧したり、消毒液を浸した布で拭くなどして消毒します。消毒液が使えないものには、熱湯消毒(80℃以上で1分以上)でも効果がえられます。

<消毒液の作り方>
市販の塩素系漂白剤の次亜塩素酸ナトリウム濃度は通常約5%です。この濃度を調節して作ります。*必ず換気のいい場所でビニール手袋をして行いましょう。

~濃度0.1%消毒液~
10mlの漂白剤に全量が500mlになるように水を加えて希釈します。
Point☆ 500mlのペットボトルに10mlの漂白剤を入れて、水を満杯にすると簡単に作れます。

~濃度0.02%消毒液~
10mlの漂白剤に全量が2リットルになるように水を加えて希釈します。
Point☆ 2リットルのペットボトルに10mlの漂白剤を入れて、水を満杯にすると簡単に作れます。

*色柄物は色落ちしたり、金属は錆びたりするので注意しましょう。

動物が口を付ける食器は、毎日洗いましょう。猫トイレは1週間に1度程度、丸洗いをして砂を全て取り換えましょう。洗えない物は日光消毒をしましょう。

主な、人と“猫の”共通感染症

パスツレラ症

パスツレラ菌は健康な犬や猫の口の中に普通に存在する菌で、猫の爪にも約20%の割合でこの菌がいると言われています。咬まれたりひっかかれたりして感染しますが、口を舐められて感染した例もあります。また空気中にいる菌を吸い込んでの感染もあります。

  • 猫の症状:通常は無症状ですが、まれに呼吸器症状が出ることがあります。
  • 人の症状:外傷性の場合は、3日以内に傷口が赤く腫れ、痛みや発熱があり、関節炎を起こすこともあります。口や鼻の粘膜から感染すると、気管支炎や肺炎などや、蓄膿症になることもあります。高齢者や糖尿病などで抵抗力の低下した人は重症化しやすくなります。

*対策* 猫の爪はこまめに切って、咬まれたり、ひっかかれたりしないように注意しましょう。

猫ひっかき病

バルトネラ菌に感染している猫や犬にひっかかれたり、咬まれたりして感染します。また、この菌を持っているノミに刺されて感染することもあります。成猫よりも、よくじゃれる子猫からの感染が多いようです。

  • 猫の症状:無症状
  • 人の症状:感染から3~14日後に傷口におできや水泡ができ、痛みや発熱、頭痛、食欲不振などの症状が見られます。わきの下などのリンパ節が大きく腫れるのが特徴です。15歳以下の子供の発症率が約半数です。

*対策* 猫の爪はこまめに切り、ノミを見つけたら必ず駆除をしましょう。

Q熱

コクシエラ菌を含んだ排泄物によって汚染された粉塵などを吸い込んで感染します。コクシエラ菌は強く、乾燥した状態でも長く生き続けることができます。長らく原因不明の病気だったため「Query fever(不明な熱)」という病名になっています。

  • 猫の症状:通常は無症状です。妊娠している場合は、死産や流産を起こすことがあります。
  • 人の症状:感染しても症状が出ないことが多くあります。急性と慢性の場合があり、急性では2~4週間の潜伏期間のあとに高熱、頭痛、筋肉痛などインフルエンザに似た症状や呼吸器症状がみられます。慢性化すると、だるさや倦怠感などの慢性疲労がみられます。慢性肝炎や心筋炎などの重い症状が出ることもあります。

*対策* 猫トイレはこまめに掃除しましょう。

犬・猫回虫症(トキソカラ症)

回虫には様々な種類がありますが、代表的なものは、長さ10㎝~15㎝位でそうめんのような形をしています。回虫の卵や幼虫が口から入ることで感染します。

  • 猫の症状:無症状です。子猫は下痢や嘔吐、食欲不振になることがあります。
  • 人の症状:健康な人では無症状ですが、高齢者や子供などの免疫力が低い人ではまれに症状が出ます。人の体内に入った虫卵がふ化して幼虫になると食欲不振や肝臓の異常、肺炎などの症状が見られ、神経に入ると運動障害や脳炎など、目に入ると視力障害が起こることもあります。

*対策* 動物病院で定期的に駆虫をしましょう。砂場で遊んだ後はしっかり石鹸で手を洗いましょう。

皮膚糸状菌症

皮膚糸状菌というカビ(真菌)が皮膚に生える病気で、原因菌は白癬菌や胞子菌などいくつかの種類があります。感染した動物と接触することで感染します。通常は皮膚のバリア機能で守られているので簡単には感染しませんが、免疫力が低下したり、湿気などで皮膚が弱ったりすると感染しやすくなります。

  • 猫の症状:感染した部分が円形に脱毛し皮膚が赤くなります。頭や首、足などによく現れます。
  • 人の症状:皮膚に丸い赤みができ、軽いかゆみが出ることもあります。腕や首回りなど、動物と接する部分によく見られます。

*対策* 湿った環境で発症しやすいので、猫の生活環境を清潔に保つようにしましょう。猫に脱毛が見られたら、動物病院に相談しましょう。

瓜実条虫症

瓜実条虫という50㎝以上にもなる長い寄生虫が腸などに寄生します。節のある平麺のような形状で、ちぎれた条虫が小さい米粒のようになり、猫のお尻から出てくることがあります。条虫は「サナダムシ」とも呼ばれます。ノミやシラミの体内で条虫の幼虫が成長し、さらに猫が毛づくろいをするときなどにノミなどを飲み込むことで、条虫の成虫が猫に寄生します。人には、ノミの幼虫などが誤って口に入ることで感染します。回虫と違い、虫卵が口に入っても感染しません。

  • 猫の症状:多くは無症状ですが、たくさん寄生すると下痢や体重減少などの症状が見られます。
  • 人の症状:乳幼児の感染が多く、腹痛や下痢を起こすことがあります。感染しても無症状の場合があります。

*対策* 定期的な駆虫でノミを駆除しましょう。

トキソプラズマ症

感染猫がフン便中に排出するオーシスト(虫卵)が口から入ることにより感染します。猫がオーシストを排泄するのは感染後1~3週間の限られた期間のみです。室内飼育の普及により猫の感染率は減ってきています。

  • 猫の症状:無症状
  • 人の症状:一般的に無症状。妊娠初期に感染すると、ごくまれに流産や、出産後の子供に水頭症などの症状が出ることがあります。

*対策* 猫トイレの掃除はこまめにしましょう。掃除の後はしっかり手洗いをしましょう。

 

まとめ

ペットに対して日ごろ何気なく行っていることが、感染症のきっかけになる場合もあります。人もペットも衛生的に過ごせる環境を整えて、正しく接すれば、「人と動物の共通感染症」の多くは予防できます。
例えば、ひとたび猫からの共通感染症が起これば、猫とは暮らせない!と大きな騒動になりがちです。非難の的はいつも動物に向けられます。猫を含すべてのペットは私たちの心を豊かにしてくれる伴侶であり、大切な家族です。ペットを守るためにも、感染症予防を意識した付き合い方をしましょう。

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