少し前に、野良猫に咬まれた女性が亡くなったというニュースが話題になりました。原因は、殺人ダニ(SFTSに感染したマダニ)から感染した猫からSFTFに感染した可能性が高いという事が分かっています。ダニから直接の感染ではなく、猫を介しての感染は世界で初めての例だそうです。また、先月は世界で初めて犬を介しての感染も認められました。殺人ダニとは何か、どんな病気になってしまうのか、まだあまり知られていない、ダニが媒介する“SFTS”という感染症について詳しく解説していきます。
殺人ダニとは?
マダニが“殺人ダニ”に
メディア等で“殺人ダニ”と言われているダニは、SFTSという病原菌を持っているマダニの事です。
マダニとは、野山などに生息しており、犬や猫に寄生していることがあります。肉眼で確認できる比較的大きなダニで、吸血して大きくなると1cmくらいにも膨れあがります。
マダニは、病原菌を持っているシカ・イノシシ・サル・タヌキなどの野生動物から吸血することによってSFTSウイルスに感染し、殺人ダニとなります。全てのマダニが殺人ダニになるわけではなく、マダニがウイルスを保有している確率は、数パーセント程度と言われています。
殺人ダニに咬まれると、吸血されている際に殺人ダニの唾液が体内に注入され、人間もSFTSに感染してしまいます。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、2011年に中国の研究者らによって発表された新しい感染症で、マダニが媒介する感染症です。日本では2013年に初めて感染が報告されてから、1年に約60人ほどの患者が報告されています。感染すると白血球減少、血小板減少、などの異常が起こります。感染経路としては、SFTSウイルスに感染したマダニに咬まれることにより感染するのがほとんどです。
どんな症状が出るの?
症状は、1週間~2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛の初期症状が出ます。その他に、リンパ節が腫れる事もあります。進行してくると、神経症状(意識障害や失語など)や、出血症状(歯肉出血や下血など)を伴います。発症から1週間程で症状は改善し始め、2週間程で正常に回復することが多いです。重症化すると、1週間以上たっても症状が改善せず、最悪の場合、多臓器不全により死に至ります。
有効な薬剤やワクチンは無いため、治療は対処的な方法になります。
致死率はどれくらい?
2014年~16年の感染症発生動向調査では、届出時点の情報で178名の報告のうち35名が死亡しています。日本でのSFTSの致死率は約20%と言われています。
今までのところ、亡くなっているのは全て50代以上で、高齢になるほど重症化しやすいと考えられています。
中国では、致死率は6~30%とされています。
SFTSの感染経路は?
ダニ→人
SFTSウイルスに感染したマダニに咬まれることにより、吸血されている際にマダニの唾液が体内に注入され、SFTSに感染してしまいます。人への感染は主にこの感染ルートになります。
マダニは野外の様々な種類の動物に寄生しています。屋外で飼っている犬や猫にも寄生している事があります。人も野山や草むらでマダニに咬まれたり、マダニが寄生している動物からうつされることがあります。人がマダニに寄生されると、数日間にわたって吸血されます。入浴しても離れません。無理に取り除こうとすると、下口体がちぎれて皮膚に残ってしまいます。マダニに咬刺されているのを発見したら無理に取ろうとせず、病院で取り除いてもらいましょう。
ダニ→猫→人
SFTSウイルスに感染している動物の体液・血液に接触することによって感染する可能性があります。しかし、この感染ルートは今のところごく稀なケースです。
女性が亡くなりニュースになった「野良猫に咬まれて感染した」と言われているのがこの感染ルートです。
SFTSを発症している猫などは、ヒトの場合と同じような症状(発熱や食欲低下などの消化器症状)が出ます。
健康な猫などからは、SFTSウイルスに感染することはないと考えられます。また、屋内のみで飼育されているネコについては、SFTSウイルスに感染する心配はほとんどありません。
この感染ルートは猫ばかりでなく、他の哺乳類での感染の可能性もあり、中国では発症している人から人へ感染した例もあります。
感染の範囲
日本国内では、2017年9月現在で、西日本を中心とした23府県で感染が確認されています。
これは、比較的暖かい地域に生息するタイプのマダニが主にSFTSを媒介しているためと考えられています。
<感染が確認されている府県>
中部地方 | 石川県、福井県(2県) |
近畿地方 | 京都府、大阪府、三重県、兵庫県、和歌山県(2府3県) |
中国地方 | 島根県、岡山県、広島県、山口県(4県) |
四国地方 | 徳島県、香川県、愛媛県、高知県(4県) |
九州地方 | 福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県(8県) |
世界では今のところ、日本と中国、韓国で患者の発生が確認されています。
愛猫と自分の健康を守る、予防方法は?
愛猫の健康を守る
SFTSはマダニが媒介するウイルス性感染症です。外に出ることのある猫は、駆虫薬等でダニの駆除をしてマダニに寄生されるのを防ぎましょう。完全室内外の猫が感染することはありません。ただ、マダニがついてしまった他のペット(外に散歩に行くことのある犬など)からマダニを介して感染する可能性はあります。猫だけでなく飼育している全てのペットのダニ駆除をすることをお勧めします。
SFTSはまだ発見されて間もない感染症のため、今までにない感染ルートがあるかもしれません。症状が出ているペットがいないか健康状態には気を配りましょう。
自分の健康を守る
SFTSウイルスは、猫を含めた動物からの感染より、主にマダニから直接感染します。予防としては、何よりマダニに咬まれないように気をつけることが重要です。春から晩秋にかけて活発に繁殖する種類が多くいるため、この時期は特にマダニに咬まれる危険性が高まります。草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖、長ズボン、帽子や手袋をして、肌の露出を少なくすることが大事です。また、そういった場所から帰ってきた際にはマダニに刺されていないか、全身のチェックをしましょう。マダニは吸血している間、頭部を皮膚に食い込ませて、ほとんど胴体しか見えません。黒い豆粒のようなものがついていたらマダニだと思われます。
秋のお出掛けに、ハイキングなど野山に行く機会もあると思います。なるべく肌を露出しないで、虫除けスプレーをするなど対策をして出かけましょう。また、愛犬と一緒のお出かけなら、犬もしっかり防虫対策をしてあげましょう。帰宅後は、ブラッシングをしてあげてダニが付着していないか確認しましょう。もしダニがついている場合には、自分で取らずに、動物病院に連れて行って処置をしてもらいましょう。
ダニ対策を!
殺人ダニではないにしても、ダニに吸血される事もそれ自体問題です。猫にとっては痒くて不快ですし、大量の吸血は貧血を引き起こしたりします。疥癬などの皮膚炎もダニが原因です。また、SFTS以外にも危険な細菌やウイルス、寄生虫を持っています。例えば、Q熱やライム病、日本紅斑熱、つつが虫病は人にも感染し、命を脅かす病気でもあります。温かい室内では、冬も活動する種類のダニがいます。愛猫と自分の健康のためにも、秋冬もしっかりダニ対策をしてあげましょう。