医療の進歩やより豊かでバランスのとれた食生活を始め私たちの生活環境は昔に比べ格段に向上しました。それに伴い私たちの平均寿命も大幅に伸び、日本は長寿国として世界に知られています。それはペットにおいても同じことがいえます。獣医学の向上、より豊かで健康的な食事、また室内飼いをする人が増えたことも一因となり、平均寿命が伸び、高齢化が進んでいます。そして皮肉なことに寿命が伸びたことで認知症を発症する猫や犬も増えています。認知症は進行性の病気なので気長に付き合っていくことが必要になります。ここでは猫の認知症について説明したいと思います。
「認知症」とは?
認知症とは脳が老化などにより衰え、壊れることで脳神経の細胞に異常が起こり正常に働かなくなる認知障害のことです。認知症にはいくつか種類がありますが、記憶力が衰え、物忘れがひどくなり、場所や時間がわからなくなったり、知っている人を認識できなくなるなどを特徴とする「アルツハイマー型認知症」、見えないものが見えたり、怒りっぽくなる、奇声をあげるなど異常な行動が見られる「レビー小体型認知症」、脳梗塞や脳出血が原因で発症する「血管性認知症」が三大認知症として知られています。「アルツハイマー=認知症」と勘違いされることも多いですが、アルツハイマーは認知症を引き起こす原因の一つです。日本では認知症のうちアルツハイマー型認知症が最も多いといわれています。
「猫の認知症」とは?
猫における認知症も私たちの認知症と同じで脳神経の細胞が正常に働かなることで起こる認知障害です。年をとることで発症することが多いですが、強いストレスが原因で起こることもあります。11〜14歳までの猫のうち28%、15歳以上では50%以上が認知症の傾向が見られるという研究報告もあります。猫の高齢化に伴って認知症の発症も増えています。
猫の認知症によく見られる症状や特徴
いつもと違う鳴き方をする
猫にはそれぞれ鳴き方のパターンや鳴き声のトーンがあります。
今まではいつも静かで、喉をゴロゴロ鳴らしていた子が年をとり、認知症を発症することで、大きな声や高い声で鳴いたり、夜鳴きをすることがあります。自分が置かれている環境や状況がよくわからなくなって、戸惑ったり、不安になったり、昼と夜の区別がつかなくなって起こるようです。また、関節炎や怪我をしているとき、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)を発症しているときにも同じような行動が見られるので注意してください。
トイレを使わなくなる、粗相をするようになる
認知症を発症することで、トイレの場所を忘れてしまったり、トイレに行くのが面倒になったり、排泄することを忘れてしまい間に合わなかったりと粗相をしてしまうことがあります。このような行動は多くの病気の兆候としても見られるので、便や尿の状態、感染症を発症していないかなどチェックすることも大切です。
グルーミングの回数が減る、しなくなる
猫にとってかかせないグルーミングも年をとり、認知症を発症することで、あまり気を払わなくなり、回数が減ったり、まったくしなくなったりすることがあります。
興奮しやすくなる、騒ぐようになる
日中は静かに眠っているのに、夜になると興奮したり、騒ぎ出したりすることがあります。認知症を発症することで、昼と夜との区別がつかなくなっていたり、時間の感覚がつかめなくなることがあり、なかには夜になると分離不安を覚える子もいるようです。
眠る時間が増える
人や物にあまり反応しなくなり、一日中寝ていることが多くなる。
怒りっぽくなる、気難しくなる
今までの環境にストレスを感じるようになり、少しのことで怒ったり、飼い主さんや家族のことがわからなくなり無視することがあります。関節炎や怪我などで体に痛みがあるときにも見られる症状なので注意が必要です。
食欲が落ちる
認知症を発症することで、食事を忘れてしまうことがあります。長期間食べ物を口にしなかったり、十分な栄養を取らないのは肝臓に障害をあたえる原因にもなります。また逆に食事をしたことを忘れてしまい、何度も催促を繰り返すこともあります。食生活をしっかりとコントロールすることが大切です。
認知症の症状が見られたら
認知症で見られる症状の多くは病気にかかっていたり、怪我をしているとき、具合の悪いときにも見られる症状がおおいので、愛猫に認知症を疑う行動が見られたり、習慣の変化に気がついたら、まずはどのくらいの期間続いているのか、どのくらいの頻度で見られるのかなど愛猫の様子を観察したうえで動物病院で診察してもらい認知症によるものなのか、他に原因があるのかを確認することが大事です。
認知症を発症していたら獣医師と相談しながら愛猫ができるだけ快適に生活できるよう出来ることはしてあげてサポートしていくことが大切です。
食事面での補助
高齢の猫に合わせたシニア用のキャットフードを利用したり、食事の量は変えずに与える回数を増やすことで消化しやすくしてあげる。脳にいいといわれるDHAやEPAを含んだサプリメントを利用する。ビタミンE、ビタミンCを多く摂取させるようにする。L-カルニチン、βカロチン、オメガ3脂肪酸も認知症に有効だといわれています。認知症の治療に有効だといわれるドーパミンの生成量を増やす薬もあるので獣医師に相談したうえで利用することも可能です。
環境面での補助
トイレをいくつか設置したり、ベットの側に移動させたりして、トイレに行きやすくしてあげる。こまめにブラッシングすることで体を清潔に保ってあげる。一緒に遊ぶ時間を作ることで、スキンシップをとりながら運動をさせてあげる。歳をとったり、認知症を発症することで視力や聴力も衰え、ナビゲーション能力も弱くなり、精神的にも落ち着きをなくし、不安な気持ちで、ストレスを抱えやすくなります。静かに安心して過ごせる愛猫専用の場所も用意してあげましょう。症状に合わせて生活環境を整えていくことは大事ですが、新しい環境もストレスにつながります。必要以上に変えないよう注意してあげてください。
最後に
認知症は進行性の病気であり、完全に治癒することは難しく、一度発症したら一生付き合っていくことになります。粗相をしてしまったり、夜鳴きをするなど飼い主を困らせることこともありますし、場合によっては介護が必要になることもあります。飼い主さんにとっても負担となりますが、長い時間を共にしてきた大切な家族の一員。きつく叱ったり、叩いたりすることなく、優しい気持ちで、愛猫の老化に寄り添う気持ちで気長に付き合っていきましょう♪